はじめに

「テストステロン補充療法」という言葉は聞いたことがあっても、実際に何をするのか、どんな種類があるのか、副作用は大丈夫なのかは、意外と知られていません。注射だと通うのが大変そう、塗り薬なら手軽そう、飲み薬があるならそれが一番楽そう、と想像される方もいると思います。

この記事では、補充療法の方法ごとの違いと、知っておきたい副作用・リスクを整理します。治療全体の流れや費用の考え方は男性更年期障害の治療についてのコラムで解説しています。あわせてご覧ください。

テストステロン補充療法とは

テストステロン補充療法(TRT:Testosterone Replacement Therapy)は、加齢やストレスなどで不足したテストステロンを、薬で外から補う治療です。血液検査でテストステロンの値が低く、疲れやすさ・意欲の低下・性機能の変化といった症状が重なっている場合に検討されます。

テストステロンの値が低いだけで、すぐに治療が必要になるわけではありません。症状との組み合わせを確認し、うつ病や糖尿病、睡眠時無呼吸など似た症状を起こす病気がないかを調べたうえで、治療の要否を医師が判断します。男性更年期の診断の流れはLOH症候群の解説コラムをご参照ください。

補充療法の種類と特徴

補充の方法は、大きく分けて注射、塗り薬(外用剤)、内服薬の3つです。それぞれに長所と短所があります。

種類使い方主な特徴気をつけたい点
注射(筋肉注射)通院して注射。製剤により2〜4週ごと、8〜12週ごとなど国内で広く使われている。医療機関で確実に投与できる注射の痛み。製剤によっては血中の値に山と谷が出やすい
塗り薬(外用剤)毎日、皮膚に塗る自宅で続けられ、値の変動が比較的穏やか塗った部分に触れた家族へ薬が移る可能性。皮膚のかぶれ
内服薬毎日、飲む手軽に続けやすい肝臓への負担が懸念され、国内では第一選択にされにくい

注射(筋肉注射)

国内でもっとも広く行われているのが、お尻や腕への筋肉注射です。薬剤が直接体に取り込まれるため、医師が投与量を調整しやすく、飲み忘れや塗り忘れの心配がありません。製剤によって間隔が異なり、2〜4週に1回程度のものもあれば、8〜12週に1回の長く効くタイプもあります。

一方で、注射の直後に値が上がり、次の注射の前に下がるという変動を感じる方もいます。調子の波が気になる場合は、間隔や量を医師と相談して調整します。

塗り薬(外用剤)

ジェルやクリームを、毎日決まった部位に塗る方法です。通院の頻度を減らしたい方や、注射が苦手な方に向いています。ただし、塗った直後に家族やパートナーと肌が触れ合うと、薬が相手に移ることがあります。とくに女性や小さなお子さんへの影響が心配されるため、塗った部分は衣類で覆う、塗布後は手をよく洗うといった注意が必要です。

内服薬

飲むだけで続けられる手軽さがありますが、肝臓への負担や、体内の値を安定させにくいことから、日本の診療の中では第一選択とはされていません。使う場合は、肝機能を定期的に確認しながら慎重に進めます。

当院のテストステロン外来でも、内服・外用(塗布)・注射など複数の選択肢を用意しています。血液検査の結果や症状・体質に応じて医師が適した方法を提案します。効果の出方や合う薬には個人差があります。

自分に合う方法の考え方

どの方法がよいかは、治療の目的と暮らし方によって変わります。次の表は、考え方の目安です。

こんな方検討されやすい方法理由
通院は苦にならず、確実に続けたい注射医療機関で投与するため、医師が経過を確認しやすい
通院の回数を減らしたい、注射が苦手塗り薬自宅で続けられる。家族への移行に注意が必要
手軽さを重視したい内服薬肝機能の確認が欠かせないため、医師と慎重に相談する

ただし、これはあくまで目安です。血液検査の結果、持病、いま飲んでいる薬、ご家族との生活環境によって適した方法は変わります。診察の中で、希望と体の状態の両方を踏まえて決めていきます。

主な副作用とリスク

補充療法は、医師の管理のもとで適切に行えば、安全性に配慮しながら受けられる治療です。そのうえで、起こりうる副作用を知っておくことは大切です。

副作用・リスク内容対策・管理
多血症赤血球が増えすぎて血液が濃くなり、血栓のリスクが高まることがある定期的な血液検査(ヘマトクリット値)。必要に応じて量の調整や休止
前立腺への影響前立腺肥大の悪化や、隠れたがんの進行を促す可能性が指摘されている治療前と治療中のPSA検査、排尿状態の確認
造精機能の低下精巣が小さくなり、精子をつくる力が下がることがある子どもを希望する間は原則行わない。別の方法を検討
皮膚症状ニキビや皮脂の増加、塗布部位のかぶれスキンケア、塗布部位の変更、量の調整
肝機能への影響とくに内服薬で、肝機能の数値が悪化することがある定期的な肝機能検査
気分・睡眠への影響イライラ、気分の変動、睡眠時無呼吸の悪化など症状の変化を診察で共有。重度の無呼吸がある場合は慎重に判断

多血症

頻度の高い副作用のひとつです。テストステロンには赤血球をつくる働きを後押しする作用があるため、値が上がりすぎると血液が濃くなります。症状に気づきにくいため、自覚症状を待たず、定期的に血液検査で確認することが重要です。

前立腺への影響

補充療法が新たに前立腺がんをつくるという明確な証拠はないとされていますが、すでに小さながんが隠れていた場合に進行を促す可能性は否定できません。そのため、治療を始める前にPSA検査を行い、開始後も定期的に確認します。

精子をつくる力への影響

外からテストステロンを補うと、体が自前でホルモンをつくる必要が減り、精子をつくる機能が抑えられることがあります。将来お子さんを望む場合や、現在パートナーと妊活中の場合は、必ず事前に医師へお伝えください。

受けられない方・慎重な判断が必要な方

次のような場合は、補充療法を行わない、または慎重に検討する必要があります。

状態考え方
前立腺がん、またはその疑いがある原則として行わない(がんの進行を促す可能性があるため)
子どもを希望している造精機能への影響があるため、原則として行わない
重度の睡眠時無呼吸症候群悪化する場合があるため、先に治療や評価を行う
多血症、重い心臓・肝臓の病気がある状態を確認し、慎重に判断する

また、外用剤は、使う本人以外の女性や子どもに薬が移らないよう配慮が必要です。いずれも、診察での問診と血液検査で確認します。持病や服用中の薬は、遠慮せず医師へお伝えください。

治療中に行う検査とフォロー

補充療法は「始めて終わり」の治療ではありません。副作用を早く見つけ、薬の量を適切に保つために、定期的な確認を続けます。

項目目的
テストステロン値(遊離テストステロン)薬の量や間隔が合っているかの確認
ヘマトクリット・ヘモグロビン多血症のチェック
PSA前立腺の状態の確認
肝機能とくに内服薬を使う場合の確認
症状の変化(問診)疲労感・意欲・性機能・睡眠・気分の経過の確認

治療を続けるか、量を変えるか、お休みするかは、検査の数値と体感の両方を見ながら、医師と相談して決めます。途中でやめたいと思ったときも、遠慮なく相談してください。

自己判断での使用はおすすめできません

インターネットなどで、テストステロン製剤やそれに似た成分をうたう商品を見かけることがあります。しかし、医師の診察や検査なしに、自己判断で補充を始めることは避けてください。多血症や前立腺、肝臓への影響に気づかないまま使い続けるおそれがあるからです。また、成分や品質が確認できない個人輸入品のリスクも否定できません。

「サプリや筋トレで続けてきたけれど、物足りない」という方は、サプリや筋トレとテストステロン治療の違いを解説したコラムもご参考になります。

まとめ

テストステロン補充療法には、注射・塗り薬・内服薬といった方法があり、それぞれ通院の頻度、続けやすさ、気をつけたい点が異なります。どの方法でも、多血症、前立腺、造精機能などへの影響を確認しながら進めることが前提です。

大切なのは、数値と症状の両方を見たうえで、自分の体質と暮らしに合う方法を医師と一緒に選ぶことです。補充が必要かどうかも含めて、まずは現在の状態を知るところから始めてみてください。

【注意事項】
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の治療法や医薬品を推奨するものではありません。効果や副作用の現れ方には個人差があります。治療の可否や方法は、診察と検査の結果をもとに医師が判断します。当院のテストステロン増強治療は自由診療(保険適用外)です。